フェルト

黒いフェルトのベレー帽の女の娘を探している。

地下鉄。その音に、思案は掻き消される。

階段。ことばを忘れてゆく。

階段。音に、彷徨いはじめる。


さようなら――太陽は、もう二度と僕のためにはかがやかない。


黒いフェルトのベレー帽の女の娘を探している。

地下鉄。その音に、思案は掻き消される。

階段。音に、彷徨いはじめる。


さようなら――僕は、空高く落ちてゆく。


彼女の黒いベレー帽の手触りは、僕が五歳のときに、いつも、離れられずに泣いていた、あの毛布と、きっとおなじ手触り。

あの毛布と、きっとおなじ手触り。

きっとおなじ手触り。