5-01-01から1年間の記事一覧

『黄色い本 - ジャック・チボーという名の友人』 (高野文子)

手にいれたいもの / 手にはいらないもの、が、ある――母の視座――この後におよんで、オレは、'第一発見者'になりたいらしい。 無駄に過去のデータは多く、結末は容易にはじきだされる――陸と海の比率が3:7であるように、この肉体の容量を軽くオーヴァーしてしま…

『フェアリーアイドルかのん』 (袴田めら)

プラスティックの塔をいくつも築いて、きみやおれは、それをラードでデコレーションする。ブクブクと肥え太った自意識から、黄色くてギトギトした脂肪が頭を突き出し──最初は針のように細く、だんだん太くなってゆく──腐った内臓を食い尽くし、まだ飢えを満…

『いちご実験室』 (山名沢湖)

ブルーカラーには、怪我がつきものだ。ハンマーで指を叩いてしまったり、足の上に鉄骨を落としてしまったり。そのたびに、イライラする。ほんとうは、いろんなことが重なった結果として、なのだろうけれど。そんなこと、その瞬間には考えられない。寒い時期…

『アクアリウム』 (須藤真澄)

無力さに泣いていた。でもそれが、思い上がりなのだということもよくわかっていた。ポピュラスじゃあるまいし、神さまにはなれない。じゃあ、総理大臣とか?あんなの、ゴーレムじゃないか。そう吐き捨てることはたやすい。要は、おれが頑張れたのか頑張れな…

『翼を持つ者』 (高屋奈月)

悲しみは、喜びのためのスパイスなのだと誰かが言っていた。でも、人生のなかで、本当に悲しいことなんてそんなに多くない。たいていは、悔しい思いが受容体の手違いかなにかで、悲しみと呼ばれるなにかにすり代わっているだけなのだろう。きみがそう望むな…

『ヘヴン』 (遠藤淑子)

少なくとも、おれ自身の意識は生きたがっていないのだと思うけれど。細胞のひとつひとつが、生きるための努力をしているのだとしたら。こうして井戸を覗き込む、意味を見出せぬそんな行為すら愛おしい。その底で、誰かが泣いているかもしれないから。声をか…

『ライノ』 (雨宮智子)

世界の終わりには、あいもかわらず、きみとくだらない話だけをしている。 篠塚は永遠の名手で。仁志の意外なパワーヒッターぶりは、いまが二十一世紀だってことを実感させるけれど、掛布が仁志を評価するときのキラキラとした眼は、野球が好きだってことと、…

『serial experiments lain (グラフィック+テキスト版 @ソニーマガジンズ「AX」)』 (小中千昭 / 安倍吉俊)

それでもぼくは、そのとき泣かずにはいられなかった。雨が降っていた。だから誰にも気付かれることはなかった。 ドロシーを乗せたつむじ風がふいたら、幽体離脱したかのように、ぼくは窓辺から飛び出し、寝静まった街を駆け巡る。そんなのデタラメだ。ほんと…

『夏色ショウジョ』 (綾瀬さとみ)

こんな想い 叶わないって分かってる でもあなたにどう想われようと もう1度その瞳が見たかったの わたしはこんなに不幸です。わたしはこんなに頑張ってます。まぁ、それはそれ。狂ったように打ち鳴らされる正午の鐘。非日常と非現実のはざまに横たわる不理解…

『高速回線は光うさぎの夢を見るか?』 (華倫変)

2002年のロスト・アンド・ファウンド。 宍戸留美が果たせなかった夢を、アンセブが継ぐように。 星を継ぐものがいて。星を欲しがる馬鹿がいる。 「星を指差すと、馬鹿は指先を見る」 『もう森へなんか行かない』の項を繰るジョイスの、心の襞にさざめく小波…

『blue』 (魚喃キリコ)

彼女の首筋の匂い。それが練乳の匂いなのか、粉ミルクの匂いなのかはわからないけど。おれたちはいつでも一緒にいて、何度もセックスした。けれど、そのなにもかもが芝居がかっていた。 濃い海の上に広がる空や 制服や 幼い私達の一生懸命の不器用さや あの…

『アンドロメダ・ストーリーズ』 (光瀬龍 / 竹宮恵子)

限りなく透明で、限りなく残酷な朝が、またやってくる。夜明け前の睦みあいは、遠い遠い国の昔話のようにその影を薄くする。高原での暮らし。ずっと憧れ続け、だが憧れ故に無垢で不可能な、永遠に廻り続ける糸車。おおぐま座とこぐま座のように。 アフルの髪…

『でたとこプリンセス』 (奥田ひとし)

何もないことを何もないままに描く・・・ 自分はそれまで、漫画に即物的な情感のみを求めていたのだが、何もないこと・・・ いや、物語は確かにあるし、世界観だってファンタジーそのものだし、非現実的極まりないのだが、何もないこと、それを核としたこの…

『地球防衛少女イコちゃん』 (あさりよしとお)

はっきり言って、増田未亜が実写に出ていたこと以外、記憶にない。ただ、徹底して美少女とメカと込み入った裏設定に萌えたのは確かだ。要するに、『トップを狙え』の元ネタみたいな感じ。それ以外に何かあるかと問われても、何とも答えようがない。そもそも…

『夏の球児たち』 (みやたけし)

ボーイズ・ドント・クライ。 整合感のために費やす時間で、楕円軌道一周の感動を。 ナックル + 剛速球 = 揺れる剛速球――永遠の刹那を。 かまきりは、文化を持たない。オスは栄養素で。女の娘は――いつも、こころの中でさけんでいる。 ボーイズ・ドント・クラ…

『船を建てる』 (鈴木志保)

笑いなよ。世界の終わりじゃないんだからさ? 「土曜の夜だゼ!!」。djが叫び、'20000v'へ――「8時だヨ!!」。それぞれのテレビの前に全員集合――おなじことだ――舞台転換。世界が変わる音楽。不思議な魔法にかかったみたい。僕らのこころは高鳴りざわめく。 …

『load of trash』 (A-10)

戦争に反対する唯一の手段は――音楽? おまえの、その'ぶき'で? ハンケチを落とした目の前をゆくお嬢さんに対してのごとき素直さで声をかけるならば、「此処がアリアハンなら、あなた死んでますよ」と。 からっぽのおまえを保護させるための'ぼうぐ'としてば…

『わずか一小節のラララ』 (くらもちふさこ)

「ものまねじゃなくて弾けるんだぜ みんなに倫子の実力聞かせるチャンスだぜ あきらめちゃだめだ なにごとにも 挑戦してみようぜ」 『わたしは カーテンの陰で ふたりのために奏でる やりきれない 弾けば弾くほどつらくなった せめて この一音一音が ことば…

『星の時計のliddell』 (内田善美)

内田善美先生(以下、内田クン)の極初期の作品に"イブによせて"』(『星くず色の船 / 内田善美傑作集 1』に収録)という、まぁ、感動的な「いい話」があります。生まれつき病弱な少女「ノン」と、「ノン」を愛する少年「睦月(以下、ムー)」の恋物語であるわけで…

『カードキャプターさくら』 (CLAMP)

高校生のころ、級友に、「人を愛することもしないのに、愛されたいと思うのは、少しムシがよすぎるんじゃないの?」と、云われた私ですが、いまでは、その級友とも音信不通です。 まったくもって、"あやまち"をくりかえしている。 小学四年生にして、ひとを…

『ウは宇宙船のウ』 (レイ・ブラッドベリ / 萩尾望都)

"today forever"と口にしてしまうこと。なんだろう、この感情は? 俺の。 (意識的でもかまわない) 僕らはくりかえす。 ドラえもんが未来へと帰る前夜、のび太と呑んだのは"ねむらなくてもつかれないくすり"だった。 よぎる、その後を振り切ることは、僕にも…

『恋人プレイ』 (玉置勉強)

やはり、鼻水たらしながら泣く女の娘というのは、美しい──ごめんなさい。神様よりも、好きです。 メーターが振り切れる瞬間。例えば、1990年の有馬記念の実況放送。あるいは、ヨ・ラ・テンゴ。 もし、あなたが、誰でもかまわないのであっても、かまわない。…

『キャプテン翼 - ワールドユース編 -』 (高橋陽一)

アナーキック・ロマンティシズム・オブ・ユース! そして、高潔さにスリーチアーズ。 C-86の頃、ドイツでスロウ・ザッツ・ビートが、あるいは、S.O.B.とナパーム・デスが遠く離れた地で同時発生したようなシンクロニシティを、キャプテン翼とネオアコ・オリ…