『翼を持つ者』 (高屋奈月)

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悲しみは、喜びのためのスパイスなのだと誰かが言っていた。でも、人生のなかで、本当に悲しいことなんてそんなに多くない。たいていは、悔しい思いが受容体の手違いかなにかで、悲しみと呼ばれるなにかにすり代わっているだけなのだろう。きみがそう望むなら、おれは別にガレー船を漕いだってかまわない。本当は、どうだっていいんだ。海へ行きたかったわけじゃないんだ。アドリア海の魚たちがそう望むなら、いつか餌になってあげるよ。