『blue』 (魚喃キリコ)

winter

彼女の首筋の匂い。それが練乳の匂いなのか、粉ミルクの匂いなのかはわからないけど。おれたちはいつでも一緒にいて、何度もセックスした。けれど、そのなにもかもが芝居がかっていた。


濃い海の上に広がる空や

制服や

幼い私達の一生懸命の不器用さや

あの頃のそれらが もし色を持っていたとしたら

それはとても深い青色だったと思う。


誰もが世界の終わりを期待した、あの夏。けれど、その夏への扉は重く閉ざされたまま。おれは、ただ深い青色の中へ墜ちてゆくだけだった。ジャック・マイヨールのように。

心地よい倦怠の中へ、還ってゆく刹那の夢。永遠に反芻し続ける夢。走馬灯のように翔る夢。
おれたちは、ラファエラとジェナリーノにも、まどかと恭介にも、エミリーンとリチャードにも、ティーナとアルバートにもなれず。

カルナバルの熱狂を遠くに聞きながら、川面に落ちた青い水彩絵の具が、次第にかき消されてゆくのを眺めている。ただ眩しかったあの頃は、海辺を彩る夕日の
グラデーションとなって、夜気の中へ溶けてゆく。